アニメ(印象)批評第四回 「苺ましまろ」

ゆるい日常に時折光る、鋭い笑いのセンス

 と云うより、「緻密に計算されたセンスのある笑いに依って構築された、一見すると唯のゆるい日常を描いた世界」の方が正確か。


 基本的に構造主義、亦ジュネットやそれ以後のバルト的分析も含め、ナラトロジー、モルフォロジー、スカトロジー等の専門的な用語を使う事は避け、併し飽迄それらはベースにある上での印象批評となる。アニメ評論、映画評論等のテンプレート化した言葉は借りない。と云うか知らないので無理。アニメでも映画評論でもそれら許りに時間を割いている人間の言葉を信じていないので敢えて読んだりしない事に由来する。と久々の前置き。


前書き
 めんどくさいのでプロローグから本編、OVA全てを一まとめにする。まぁプロローグはあんま関係ないか。原作は3〜4巻程読了。折笠富美子出演作品ストーキングの流れで観た。彼女の声を聞いたのは、ぱにぽにだっしゅが初めてであり、多分数ヶ月位経った後にあの天才的アホ声が聞きたくなりこの作品を観た。見事当たり。アホキャラから入ったので、前回書いた電脳コイルではほんとにこれ折笠さんっすか?とその演技と声に驚く。オフィシャルだかのサイトを見たら吹き替えもやっていたらしく、丁度その作品を持っていたので日本語吹き替えで観る。判断できねー。だって薄いんだもん。今度アタマから最後まで落ち着いて観る事にするが。だって日本語版の吹き替えキャストのクレジットって無いし、てか抑もそれで良いのか出演者の為に?スタッフロールみたいに義務付けないのか声優労働組合。DVD買って吹き替えで観る事が無いから気付かなかったが。映画とDVDの声優が同じかどうかも解らんし。

これね。シンデレラストーリー系

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レイチェルならコメディのこっちの作品の方が好きだけど。これは折笠さん関係ないです

同じレイチェルの作品で”ガールズ・ルール”ってのでも吹き替えやってるそうだけど廃盤でどこにも売ってないんだよなー。昔買っておきゃ良かった。

 って話が逸れた。まぁそんなこんなでアホ系フツー系両方凄いのだが、アホ系の声がベースでスィアリアス(さすがにこれは解りにくいかシリアスね)な演技もある作品があったらすげーだろーなと思ってたら見つけたのがすてプリだったのである。1話目で号泣。ほんと天才だよ。てか、通常の喋りでも、フツー系の演技でも薄い、特徴がある声では無いのになんであんな天才的なヴィブラった魅力的なアホ声が出せるのだろー。まぁ声の幅では斎藤千和も凄いと思うが。まぁ取り敢えず声優話は今度で。つってもいつも沢城嬢に就いても同じ誉め方しかしてないから折笠女史に対しても同様になってしまうのだろうが。長くなった。

内容を俯瞰的に
 最近ではデンノコ、昔で云えばどれみ等とは対極的な、笑いに徹したアニメである。友情的な描写や成長など全く描かれていない。同じ小学生モノなのにね。でも俺の小学生時代ってこんなモンじゃなかったかな。てか美羽ほど面白いのはこれはこれで珍しいか。以上。短っ。まぁ後は”ゆるい”と書いたが、女性声優陣がゆるいと言ってたのでそう書いただけであり、唯なんて事の無い日常をだらだらと描いた作品では無い。あ、後”原作を超えた”若しくは”越えた”との表現を見る事があるが、まず不適切である。オリジナルがあるから、その設定、登場人物、ストーリー等を一部でも使って二次的な作品ができる訳で、日本語としておかしいのである。と書いた上でこの作品を評させてもらうが、”原作より遥かに面白く出来が良い”。
 まんがの方はそっち系の方専用な感じであり、時々笑える部分があるものの、どうも健全な感じがしないのである。アニメでは一部原作の面白い部分は抽出し、アニメオリジナルの笑いも入れている。サービス・シーン(サービス・ショット、セクシー・ショット、なんでもいいが以下SS)も特に入れず、あってもリビディナスな感じが無い。この後に書くと思うが、登場人物が”かわいい女の子”でなくても成立する笑いが多いのが素晴らスィー。

で、笑い

1.反復
 これは物語学なんかに於ける反復とは違い、勝手に名前を付けたモノである。でも俺の造語では無くまんがや小説の技法の反復とかみたいなモン。笑いに使われる事が多く、有名なとこではヨブとか虚空の目とか。同一人物、又は同一状況での複数人物が、同じ事を間を空けて繰り返す事である。同じ展開を繰り返す事が予想されるモノなので段々と省略(時間が短縮)されていく事が多い。反復がほぼ毎回登場する場合パターン(βと呼ぶ事とする。その作品のお決まりの様なモノだ。亦パターンが作品のフレームとなると、一つのジャンルになり、これを文法(γと呼ぶ事とする。以上は便宜的に名づけたもんなので正確な用語として覚えないでね。
 後ろから片付けると、先ずγの場合、ヒーローモノと云う文法が存在する。初めに何らかのドラマがあり、敵が登場し、ヒーロー(ヒロイン)[達]が決め台詞とポーズを決め変身、敵を倒す、と云う一連の流れである。地獄少女ゲゲゲの鬼太郎はホラーと云う括りで売られているが、明らかに文法はヒーローモノである。
 逆に一見ヒーローモノの様で、そうでないモノにおジャ魔女どれみしゅごキャラ!が挙げられる。前者は魔法を使うが、それが基本的な解決にならない事が多く、主に登場人物の心や友情をメインに描いたドラマ性の強いモノである。後者はPEACH-PITのアニメ化された他の作品、DearS、RosenMaiden、ZOMBIE-LOANも含め、全てに共通するが、基本的にアイデンティティーの模索、レゾン・デートルの発見或いはそれに関わる煩悶等、それが宇宙人、人形、リヴィング・デッド、そして勿論人間であれ、登場人物達のそれら内面の成長を描く事が根底にあり、アニメ化する際にもそれを考慮して製作されたと思われる。従ってしゅごキャラ!も、子供向けにも拘らず、毎回変身して×たまを浄化する事や敵と戦う事が(主人公に)義務付けられていないのである。
話が逸れた。

 で、β。これは1.美羽がボケをかました際にうつぶせに倒れ込む、2.窓から入る等が挙げられる。他の作品で云うと撲殺天使ドクロちゃんでのエスカリボルグで殺された主人公が、同じ殺した側であるドクロちゃんの「ピピルピルピルピピルピー」と云う呪文的なモノで蘇る部分である。このパターンと云うモノは読者に安心できる笑いを与える役目がある。
 そこで1であるが、これはうつぶせに倒れている→殴られるなり蹴られるなりしたと云う、前者が記号表現、後者がその指し示す記号内容と云うコードをこの作品内に作り上げる。扨て先程安心できる笑いと書いたが、このパターンも亦破壊する事に依って笑いを生み出す事ができる。それがOVA第2巻で使わていれる。即ち記号内容の裏切り(a、若しくは記号表現の穴とも云うべき一種のミスディレクションである。穴とは目指していった方向に穴が開いていて落とされた、肩透かしの様な笑いを表現する。記号が多くなってきた。まとめて考えてから書けば良かった。まぁいいや続けよ。
 その(a、即ち記号に依る笑いは色々使われており、取り敢えず榎本俊二のゴールデンラッキーから例を挙げる。完全版上・中・下の内、中を使うので持っている方は開いて欲しい。講義かよ。1つ目はp192の「そこまで買い物じゃ」である。てかもう記号無いよ。上記の意味の記号じゃなくて。
 1.登場人物二人。A.まんがを持ちながら「このマンガ面白いよ1回爆笑しちゃった」B.「へえ〜」
 2.Bがまんがを持って読み、Aは後ろからそれを覗き込む。
 3.BとA、2と同じ体勢の儘で顔を上に向け大きく口を開ける。目の下には斜線。
この段階で3の画、二人の表情を爆笑としての記号と捉えてしまう。
 4.BとAの表情は変わらず、カメラがヒき全体を写すとBとAは下半身パンツのみであり、裸足の足をチャリに乗ったおっさんに轢かれている。
即ち3の顔は痛がっている表情だったと云う訳だ。
 繰り返しになるが、3の画の顔の記号表現として1のフリで爆笑が記号内容だと思い、4のオチで絶叫だったと裏切られる。これは文章や声の入るアニメではできない表現である。この巻に同じ(aの内容のモノがあったが見つからなかった。まぁいいや。その他記号内容の多義性に依る笑いがp429「森のブラーブラーブラー」に見られるが詳細は省く。
 記号表現と記号内容が一致しても、それが意味をなさない場合がある。ギャラクシーエンジェル(以下GA)Xの#24「カレイ煮付けカレー」である。「しーっ」と口に指を当て静かにさせるボディ・ランゲージはよく見られる。この記号をヴァニラ・Hがこの回で使うのだが、最初は料理の最中にノーマッドに対して、次に自分の作った呪いの薬品の様なモノでエンジェル隊の人間が魚化した際、オチとして使われる。初めの記号をフリとし、次は同じ動作ではあるが意味をなさない、と云うか不適切な場所で使われる笑いとなる。めんどくさいので詳しくは書かないが、このヴァニラは非常に面白い。”記号”で一つ項目を設けりゃよかったな。みづれーけどまぁいいや。金もらって書いてる文じゃねーし。

 で、本来の”反復”に戻る。これは作品を観た人間ならすぐ思い当たるだろうが、代表されるのは笹塚君と5-2担任の攻防である。いつも第1話で面白いかどうか解ると言っているが(製作時間がある為)、実は2話目も大事だったりする。そしてこの作品の#2”アナ”で様々な笑いが使われ面白いと確信するに至った。この反復〜笹塚君×5-2担任〜も#2で使われる。笹塚君は理不尽な理由で廊下に立たされる。それが何度か繰り返されるのだが、冒頭に書いた様な省略があり、非常にリズムが良いのだ。#5でも同様の攻防が見られる。これもβの様に安心した笑いなのだが、矢張りこの作品が凄いのはそれを裏切ってくれるところであり、#12がその回に当たる。
 この反復もよく使われるモノの一つであり、またGAから引用すると第2期の#2「筋肉隆々担担麺」でのランファとグレート・マッスルの戦いや、#8「ウェディングケーキ合体スペシャル」の合体ロボに個々が乗るシーン、第3期#4「スペシャル前菜・メインディッシュ抜き」での球状ロスト・テクノロジーVSペイロー兄弟のどっちか等沢山見られるが、一番面白いのは第3期#18での「数珠つなぎ手打ちそばつなぎなし」での回想の反復である。先ず曲。♪キュンキュンキュンキュンハートが〜踊ってる〜Let's Go!♪の曲が耳に残るのだ。因みに「Happy Holiday」と云う曲で、って俺が書くまでも無いだろうが一応、「ギャラクシーエンジェル 飛び込んできたTWIN STAR(GCFC-29)」と「GALAXY ANGEL X'mas CD 2003 Angel X'mas(BRCA1028)」に収録されている。この回の面白いところは、反復の途中、ミントの回想で関係無いものが入ってくる部分であり、これも”穴”系、裏切られる系が反復に絡められている。
 無印#15の「落としモノぽとふ」でもミルフィーがLucky Girlのイントロと共に出かけるシーンが繰り返されてはいるが、パロディ又はオマージュとして捉える。オリジナルはRUN LOLA RUN(原題 LOLA RENNT)と云う映画であり、これを元にしたところでセンスが若干良いスタッフだと思ったモノである。

2.省略
 すげー長くなったな。久々に偏頭痛が。チャッチャと余計な事書かんで進もう。で、省略。名前の通りである。読者がその後を解る程度の範囲で、セリフ等を途中で省略する事でテンポも良くなり笑いにも繋がる。#2で初対面の千佳がアナに質問する。千佳もそうだが、流れとして日本人からイギリス人に対しての質問である。当然、文化の違い、また初対面である事から個人へ質問等がくるところである。そこに美羽が「じゃあさじゃあさカレー味の」。で切られいつものうつぶせ。美羽の質問自体も面白い。併し、まぁこのセリフをフルで言う事は先ずこの手のアニメでは無いだろうが、一応省略の面白さに入れておく。
 もう1つ挙げると#6「真夏日」。伸恵を起こさない様にスケッチブックで会話する件りも面白いのだが取り敢えずこの項でのメイン。その会話を終え伸恵を起こそうとする美羽の行動に対しアナが「あの方あたまおかしい」と書いたスケッチブックが途中テーブルで隠れて省略されている。僅か1秒程ではあるが、「あの方あたまおかしいんじゃありませんの?」的な事が書かれている事が解る。
 この省略はアタマにも書いたが、受信者がその先を推測できる程度にテンポを良くする為に使われる為、冗長にならずに面白い効果を発揮する。笑いと関係ない部分で云えば、まなびストレート、まだタイトルのみの批評だが、に省略が使われている。先に散々書いた”記号”と関係するので引用する。#10「集う仲間たち」でむつきに対する質問に対し、桃葉が「超法規的措置に依り釈放されました」かなんか言い、理事長がくしゃみをする。”くしゃみをすると誰かが噂している”と云う日本のコード体系に組み込まれた記号、記号内容は”誰かが噂をする事”で、記号表現が”くしゃみ”となる。これはドラマでもアニメでも通常の会話でも至るところで見られるが、大抵噂をする人間が、噂をされる人間の名前を出すか、くしゃみをした人間が自分が噂されている事を言う、等、記号を更に説明してしまうのである。併し前述の件りでは桃葉は「誰に」とは言わず、理事長もくしゃみをするだけで終わる。そのコードを知っている日本人の大多数にはそれだけで解る、テンポの良いシーンになっているのだ。非常に僅かなセリフをカットしているだけなのだが、そこにセンスが感じられるのである。勿論このどこから発祥したか解らない記号、柳田國男先生は知ってるかも知らんが、が将来的に消えてしまったら意味が解らないだろうが、少なくともその時代でも関連性がある事を推測はできる筈である。

3.並行
 えっと、1つの画面内で複数のドラマが進行してる事。あとセリフを左右のスピーカーで、ってのも。後者はさっきも引用したGA第2期の#2「筋肉隆々担担麺」でのランファを応援するミルフィーとフォルテが別々のアドヴァイスを同時に喋っているところ。
 先程も参照した#6のスケッチブックでの会話。美羽と千佳、茉莉とアナが並行して会話している。あとこれは笑いと云う程では無いが、#1「バースディ」で美羽が千佳に宿題を写させてくれと言っている時に、画面右では茉莉がジョンと戯れ結果倒される等。このシークウェンスも1話目で俺がこの作品を気に入った要素である事に気付いた。

4.S.E.(サウンド・エフェクト)
 が非常に凝っている。これは例を挙げて細かく説明しない。もう疲れた。美羽が倒された時とかね。あ、又#6だが、アナが明文堂のおじいさんと対峙する場面は画も音もホラーになっており一瞬にして世界を変えている。

5.その他
 大体もうめんどくさくなってるな。いきなりコント始めるとことか、ボケの美羽とツッコむ千佳とか。#8「お祭り」のアバンタイトルで美羽がテストの最中自作と思われるお祭りの歌を歌う。もうこの時点で面白いのだが、歌っている間は無視して解答を書いている千佳だが、ボケた部分ではツッコむのだ。まぁアナの英語下手ネタも笑える部分はある。「とぅーしぇんえんです」(教室時)はそれまで笑った事がなかったのだが何故か3周目で吹いた。
 ユートピアと理想郷の部分では言語で言語を説明する不確実さ、まぁ日常にある光景だが、ここの美羽のセリフを「言葉って不完全なものだねーお姉ちゃん」とかすると、いがらしみきおの得意とする卑近な部分から形而上的な笑いにもっていく系に出来たのにとかちょっと残念だったりする。
 とにかく様々な種類の笑いが詰め込まれている。上に挙げたボケとツッコミ、会話、行動、4コマ的な密度の高い笑い等。

登場人物、声優、曲とか全部
 折笠富美子のアホ声力は凄い。千葉紗子も余り他の作品を知らないが千佳は非常にハマっている。川澄綾子のヴィブラった泣きそうな声も良い。能登さんはいつも能登さんである。何故か結構能登さんの出演作を観ており、「いつも能登さんだなぁ能登さんは」と思っていたのだが、ちょっとした事がきっかけで好感度うpった。まぁそれは今度書くか。とにかくみんな良いって事で。5-2担任、明文堂のおじいちゃん、笹塚君も。
 オープニングは良い。エンディングは聞かない。良い曲でもテンポの遅い曲、まったりした曲はいつもトばすのだ。どれみ然りローゼン然りGA無印然りである。亦これはアニメに限った事では無い。折笠さんの曲なんだけどね。まぁ声優として好きだって事で歌はいいじゃん。

まとめ
 最初の方にも書いたが、純粋なる笑いのアニメである。まぁこの作品でも伸恵の優しさとか美羽の嫉妬とか細かい感情の動きも描かれているが。コメディの方がシリアスな作品よりも作るのが難しいと思う。勿論作るだけなら何でもできるだろうが。
 そして名作と呼ばれる事は尚更難しいだろう。が、この作品は名作と呼ばれるにふさわしいと思う。笑いは好みでもあるが学ぶものでもある。幼い頃から脳が出来るまでに覚えた笑いと違うモノでも、大人になってからでも学べるのである。だからみんな学べ。

苺ましまろ 作品ランク:C♯ 了

 temp:多分すげーぐちゃぐちゃだろーな。色付けとか直しとか明日でも。てかもう29日かよ。