Cantata 140

 きっと、困難な四年間の任期になるだろう、とジム・ブリスキンはむっつりと考えた。四年? いや、おそらく二期八年だろう。
 ――世の移りゆきからして、かれの予感は当たった。それは八年だった。

            〜カンタータ百四十番〜 冬川 亘訳 "シビュラの目"ハヤカワ文庫


 他の作品でJim-Jamと呼ばれる、軽い感じと権謀術数を合わせ持つ同じ名のニュース・クラウンとは違う、弱気な部分もあるが誠実なJim Briskin。アメリカ初のカル(色つき)の大統領である。

 今年の一番のニューズは矢張りオバマ氏が次期大統領に決まった事である。個人的な事を含めても。何故なら、未だにアメリカはアメリカであるアイデンティティを失っていない証左と見る事ができるからだ。先進国の中で、大衆が政府に反発して政権を交代させた事の無い数少ない国である、上意下達、陰でグチグチ文句をいいながら、の日本では誰が首相になっても変わらない。麻生さんは面白いので好きであるが、政治とは関係の無い部分での話である。
 「強いアメリカ」は軍事力では無く、"自由"と"正義"から来ていたモノである。国民一人一人が責任、道徳観を持った上での"自由"。その社会が"金"以外の部分での"夢"を作り、個々人の能力を発揮させる。勿論マイナス面もあるが、それも自己責任の"自由"である。まぁ俺はスペインに移住したいが。
 ここ暫くは、と云っても偶に友達から聞いたり、ネットで覗く程度だが、飽迄も力に依る、悪しき時代の「強いアメリカ」を作ろうとしていた様に見える。欧州のアメリカ嫌いもここら辺から始まったのでは無いかと思うが。若しオバマ氏が、話した内容と同じ考えを持っているなら、冷戦からベトナム時代の様などろどろに巻き込まれているかの様に見える現在のイラク問題を解決できる筈であると思う。

 "正しい道を選択する事"こそ、アメリカがまた強くなる為の条件である。"正義など無い"、"立場に依って正義が変わる"などとは、俺は思わない。"かわいいは正義"である。グレーゾーンを残したいのは自分も曖昧でいたいからと云う人間の甘さである。勿論それぞれの人間、団体の立場を考える事は、人間が人間である為に必要な事であるが、それを踏まえた上で客観的に白黒を付ける事が必要である。唯、"誤った正義"は存在し、それがテロに対し武力で、而もキリスト教福音派だかを味方に付けてイラクを制圧しようとしたブッシュのアメリカである。イスラムユダヤ教には聖戦は存在するが、キリスト教にはそんなものは無いでしょう確か。イエス・キリストが異教徒を殺す様に奨励したとは思えない。

 個々人、企業に於ても然りであり、結局は目先の利益の為に信頼を失っては何もならない。誤った道と知りながら、自ら選んだ人間には"自由"は存在せず、罪の意識に囚われるだけである。

わたしの生徒の日のノートの上に
わたしの学校机と樹木の上に
砂の上に 雪の上に
わたしは書く あなたの名を

読まれた全ての頁の上に
書かれてない全ての頁の上に
石 血 紙あるいは灰に
わたしは書く あなたの名を

金色に塗られた絵本の上に
騎士たちの甲冑の上に
王たちの冠の上に
わたしは書く あなたの名を

夜々の奇蹟の上に
日々の白いパンの上に
婚約の季節の上に
わたしは書く あなたの名を

夜明けの一息ごとの息吹の上に
海の上に そこに泛ぶ船の上に
そびえる山の上に
わたしは書く あなたの名を

戻ってきた健康の上に
消え去った危険の上に
記憶の無い希望の上に
わたしは あなたの 名を書く

そしてただ一つの語の力をかりて
わたしはもう一度人生を始める
わたしは生まれた
あなたを知るために あなたに名づけるために

自由(Liberté) と―――。

      〜ポール・エリュアール